トップ / 門前町の再生

05 — 再生のドキュメント

年間20万人の通りが、
数百万人の町になるまで。

内宮の門前に続く「おはらい町」。今では一年中人波が絶えないこの通りも、昭和の終わりには観光バスが素通りし、訪れる人が激減した時期がありました。町を甦らせたのは、ある老舗の決断と、町並みを守るという地元の選択でした。伊勢の門前町の、再生の物語です。

おかげ横丁の町並みと行き交う人々
おかげ横丁

この部屋の問い

参拝者は増えていたのに、なぜ門前町は寂れたのか。

THE QUESTION

内宮には人が来ているのに、門前の通りには人がいない――なぜそんなことが起きたのか。

高度経済成長期、参拝者の多くは観光バスや自家用車でやって来るようになりました。駐車場から内宮へ直行し、参拝を終えるとまた車で次の観光地へ。門前町を歩く理由が、なくなってしまったのです。

かつて宇治橋前から続く約800mの参道は、御師の館が並び、参拝者が必ず歩く道でした。「おはらい町」という名前も、御師たちが参拝者に御祓(おはらい)の御札を授けていたことに由来するとされます。

ところが昭和の後半には、通りは空き店舗が目立つようになり、ある時期には通りを歩く人が年間20万人ほどにまで落ち込んだと言われています。内宮の参拝者は数百万人いたにもかかわらず、です。

ある老舗の決断

赤福が賭けた「もうひとつの門前町」

この状況に危機感を抱いたのが、宝永4年(1707)創業の老舗・赤福でした。当時の社長・浜田益嗣氏は、「門前町が寂れれば、いずれ神宮の参拝者も減る」と考え、通りの再生に乗り出します。

まず取り組んだのは、赤福本店をはじめとする建物を、伊勢の伝統的な町家の様式で建て直すこと。そして伊勢市も町並み保存の制度を整え、通りの電線を地中化し、建物を伝統様式に建て替える際の支援を始めました。

1970〜80年代

門前町の空洞化

車社会の到来で、参拝客が通りを歩かなくなる。

1980年代後半

町並みの再生が始まる

赤福が本店周辺を伝統様式で整備。伊勢市も町並み保存の取り組みを進める。

1993

おかげ横丁 開業

第61回式年遷宮の年。赤福が総額140億円ともいわれる資金を投じ、江戸〜明治期の伊勢の町並みを再現した一角をつくる。

2013

第62回式年遷宮

遷宮の年、おはらい町・おかげ横丁の来訪者は大きく伸び、門前町は完全に息を吹き返す。

「おかげ横丁」の名は、江戸時代の「おかげ参り」にちなんでいます。敷地には伊勢の町家や移築した建物が並び、飲食店や土産物店、太鼓の実演などが行われる一角は、「伊勢参りの賑わいを現代に再現する」ことをめざしてつくられました。

玄人の視点:おかげ横丁が画期的だったのは、「テーマパーク」ではなく「町」をつくろうとしたことでした。入場料はなく、既存のおはらい町と一体となって歩ける動線を設計したことで、通り全体の回遊性が生まれました。一企業が門前町全体の再生を引き受けた例として、全国のまちづくり関係者が視察に訪れています。

伊勢の町家を読む

なぜ伊勢の家は「妻入り」なのか

おはらい町を歩くと、建物の多くが三角形の屋根の側面(妻)を通りに向けた「切妻・妻入り」であることに気づきます。一般に、町家は屋根の長い辺を通りに向ける「平入り」が多いのですが、伊勢では妻入りが主流です。

よく語られる話

神宮の正殿に遠慮して妻入りにした

神宮の正殿は平入りなので、同じ形を避け、畏れ多いとして町家は妻入りにした――という説明が、地元でもよく聞かれます。

実際のところ

はっきりとした記録はない

遠慮説は広く語られていますが、それを裏付ける確かな史料は見つかっていません。間口の狭い敷地に建てるための合理性など、ほかの理由も考えられています。

三角形の妻側を通りに向けた伊勢の町家の屋根
妻入りの町家伊勢市内

伊勢の町家のもう一つの特徴が、軒先の注連縄です。多くの家が一年中、玄関に注連縄を飾っています。詳しくは「地元の常識」の部屋で。

もう一つの門前町

外宮前と、「伊勢の台所」河崎

外宮参道――伊勢市駅から外宮へ続く参道も、かつては御師の館が並ぶ山田の中心でした。近年は遷宮に合わせて整備が進み、古い建物を生かした店が増えています。

河崎(かわさき)――外宮の北、勢田川沿いに広がる河崎は、江戸時代から続く問屋街です。伊勢湾から川を遡ってきた船が荷を下ろし、米や塩、海産物、そして参拝客をもてなすための物資が集まったことから、「伊勢の台所」と呼ばれました。川に面して蔵が並ぶ景観は、神宮とは違う、商人の町・伊勢の顔を見せてくれます。昭和の水害をきっかけにした河川改修で一部の蔵は失われましたが、地元の保存活動によって多くの町並みが残され、商家を活用した「伊勢河崎商人館」などで往時の暮らしを知ることができます。

切妻妻入りの町家が並ぶおはらい町の石畳
おはらい町内宮門前
勢田川沿いに並ぶ河崎の蔵
河崎の蔵並み勢田川沿い

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門前町で、何を食べるか

赤福、伊勢うどん、へんば餅。伊勢の味には、それぞれに参宮の歴史が刻まれています。

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