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11 — 伊勢の暮らし

注連縄は、
一年中かけておくもの。

伊勢の町を歩くと、12月でもないのに多くの家の玄関に注連縄が飾られていることに気づきます。神宮とともに暮らしてきた伊勢の人々には、外から来た人が驚くような「当たり前」がたくさんあります。そんな地元の常識を集めました。

「蘇民将来子孫家門」の木札がついた伊勢の注連縄
一年中の注連縄

この部屋の問い

伊勢の家は、なぜ一年中注連縄を飾るのか。

THE QUESTION

正月飾りのはずの注連縄が、なぜ伊勢では一年中あるのか。

伊勢志摩地方では、玄関の注連縄を正月の間だけでなく一年中飾り、年末に新しいものに掛け替えます。その中央の木札には、多くの場合「蘇民将来子孫家門(そみんしょうらいしそんかもん)」と書かれています。

「蘇民将来」の由来は、次のような言い伝えです。昔、旅をしていた須佐之男命(すさのおのみこと)が一夜の宿を求めたとき、裕福な巨旦将来(こたんしょうらい)は断り、貧しい兄の蘇民将来は快くもてなしました。須佐之男命はそのお礼に、「蘇民将来の子孫」と書いた札を掲げておけば、その家を疫病から守ると約束したといいます。

伊勢の人々は、この札を掲げた注連縄を一年中玄関に飾り、家を災いから守るお守りとしてきました。札には「笑門」「千客万来」と書かれたものもあり、「笑う門には福来る」の願いが込められています。

注連縄は年末に新しいものと掛け替え、古いものは神社のどんど火などでお焚き上げします。伊勢市内では年末になると、注連縄を売る店があちこちに出て、町の風物詩になっています。

二十年に一度の主役

お木曳とお白石持ち――市民が神域に入る日

式年遷宮で、伊勢の人々が主役になる行事が二つあります。

お木曳(おきひき)

遷宮の御用材を、伊勢の町の人々が神域へ運び入れる行事。町ごとに「奉曳団」を結成し、揃いの法被を着て、木遣り唄に合わせて大きな御木を曳きます。外宮へは奉曳車で陸を曳く「陸曳」、内宮へは五十鈴川の流れの中を曳く「川曳」。子どもから高齢者まで、町が総出で参加します。

お白石持(おしらいしもち)

遷宮の直前に、新しい正殿の敷地に敷き詰める白い石を奉献する行事。宮川の河原で拾い集めた白石を、参加者が一つずつ白い布に包んで持ち、正殿のすぐそばまで進んで置いていきます。ふだんは立ち入ることのできない御垣内の、真新しい正殿の間近まで入れる、20年に一度きりの機会です。

これらの行事に参加するのは、かつて神宮の神領だった地域の人々、「旧神領民」です。20年に一度の行事なので、多くの人にとって一生のうちに2〜3回しか経験できません。「子どもの頃にお白石を持った。次は親として、その次は祖父母として」――伊勢の人々はこうして、遷宮の記憶を世代から世代へと受け渡してきました。

お木曳の木遣り唄や法被、奉曳車は町ごとに受け継がれていて、遷宮が近づくと各町で練習が始まります。20年ぶりに押し入れから出した法被のサイズが合わなくなっている、というのはよくある話です。

伊勢の暦

朔日参りと、秋の初穂曳

朔日参り(ついたちまいり)

毎月1日の早朝に神宮に参り、前の月の無事を感謝し、新しい月の無事を祈る習慣。伊勢の人々の間で古くから続いてきました。この日に合わせて、赤福は「朔日餅」を売り出し、おかげ横丁では「朔日朝市」が開かれます。夜明け前から門前町が賑わうのは、伊勢ならではの光景です。

初穂曳(はつほびき)

10月の神嘗祭に合わせて、その年に収穫された新穀を神宮に奉納する行事。伊勢の町の人々だけでなく、全国の人々が参加し、奉曳車に新穀を載せて外宮へ、五十鈴川の川曳で内宮へと運びます。お木曳の伝統を生かして、昭和期に始まった比較的新しい行事です。

伊勢まつり

神嘗祭を奉祝して10月に行われる伊勢の秋祭り。市内の各町から踊りや山車が繰り出し、神嘗祭を町全体で祝います。

神宮奉納全国花火大会

毎年7月、宮川の河畔で開かれる花火大会。全国の花火師が技を競う競技大会で、その腕前を神宮に奉納する、という位置づけです。

伊勢の人の言葉

「外宮さん」「内宮さん」と、伊勢弁

伊勢の人は、神宮のことを「伊勢神宮」とはあまり呼びません。内宮は「内宮さん」、外宮は「外宮さん」、神宮全体は「お伊勢さん」や「大神宮さん」。まるで近所の人を呼ぶように、「さん」を付けて親しみを込めて呼ぶのが伊勢流です。

伊勢弁意味使い方の例
せこい苦しい、しんどい「坂道歩いてきて、せこいわ」(ケチの意味ではない)
とごる液体の底に沈む・沈殿する「砂糖がとごっとるで、よう混ぜな」
つる(机などを)持ち上げて運ぶ「その机、つって」
~やんか~じゃないか「そんなん、知っとるやんか」
おおきんありがとう(年配の人を中心に)「おおきんな」

注意:三重県の方言は地域による差が大きく、ここで紹介した言葉は伊勢を含む三重県の広い地域で使われるものです。若い世代ではあまり使われない言葉もあります。

伊勢の人の「参り方」

地元の人は、こう参る

早朝に参る

神宮は季節によって朝5時から参拝できます。地元の人は、観光客が少なく空気の澄んだ早朝に参ることが多く、朝の散歩がてら「外宮さん」に参る人もいます。

正月は少しずらす

元日の内宮は、全国からの参拝者で大混雑します。地元の人の中には、三が日を避けて落ち着いた頃に初詣に行く人も少なくありません。

修学旅行の記憶

かつて東海・関西の多くの小学校では、伊勢参りが修学旅行の定番でした。「子どもの頃に伊勢に来た」という大人が多いのは、そのためです。

「片参り」を気にする

外宮と内宮の両方に参ること。地元の人が観光客に「外宮さんも行った?」と尋ねるのは、この感覚が今も生きているからです。

次を読む

実際に歩いてみる

ここまで読んできた物語の舞台を、玄人の視点で巡るスポット集です。

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