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06 — 食
冬の雷は、
ブリの合図。
11月、金沢の空で雷が鳴ると、地元の人は「ぶりおこしやね」とつぶやきます。 日本海の冬の幸、武家のしきたりが形を決めた料理、そして茶の湯が育てた甘いもの好きの気質。 加賀料理の名店ガイドではなく、金沢の人が「当たり前」と思っている食の理由を集めました。

冬の海
「ぶりおこし」とカニ面
北陸の冬の雷は、夏の雷と違って、寒気が日本海の上を渡ってくるときに起こります。ちょうどこの時期、脂ののった寒ブリが沿岸にやってくるため、冬の始まりの雷を「ぶりおこし」と呼んできました。雷が鳴ると、ブリ漁の季節が来た合図です。
そのブリを使った正月の味がかぶら寿司。塩漬けにした蕪に寒ブリの切り身を挟み、米麹で漬け込んだ発酵食で、酢飯は使いません。「寿司」の古い形、なれずしの系譜を引く料理です。
そして冬の金沢でもう一つ欠かせないのが、ズワイガニの雌である香箱(こうばこ)ガニ。資源保護のため漁期は11月上旬から年末ごろまでと短く、この時期だけのごちそうです。身と卵(内子・外子)をほぐして甲羅に詰め直し、おでんの鍋で温めたものを「カニ面」と呼びます。
金沢おでんは冬だけの料理ではなく、一年中食べられています。車麩、バイ貝、赤巻(渦巻き模様のかまぼこ)、ふかし(魚のすり身の蒸し物)など具も独特。人口あたりのおでん屋の数が多い町だとも言われます。
武家のしきたり
名前の謎と、背開きの鯛
治部煮 ― 名前の由来が三つある料理
鴨肉(または鶏肉)に小麦粉をまぶして煮汁でとろみをつけ、金沢特産のすだれ麩や青菜とともに盛り、わさびを添える。加賀料理の代表格・治部煮には、名前の由来に三つの説があります。
- 煮るときの「じぶじぶ」という音から
- 秀吉の兵糧奉行・岡部治部右衛門が伝えたから
- 「鴨の煮物」を意味する言葉から
いずれも決め手はなく、「じぶじぶ説」の根拠とされた古い料理書には、実は「しふしふ」と書かれていたという指摘もあります。伝承由来が分からないまま、四百年近く愛され続けている料理です。
鯛の唐蒸し ― 腹を切らない理由
祝いの席に出る鯛の唐蒸しは、鯛におからを詰めて蒸し上げる豪快な料理です。このとき鯛は、腹ではなく背から開くのがしきたり。武士の町では、腹を開くことが切腹を連想させて嫌われたから、と説明されます。伝承婚礼では二尾の鯛を腹合わせにして盛ることもあったといいます。
和菓子の町
なぜ金沢の人は、こんなに和菓子を食べるのか。
総務省の家計調査では、金沢市は「和生菓子」への支出額で全国の県庁所在市などのうち何度も1位になっています。ようかんやまんじゅうでも上位の常連。金沢は全国有数の「和菓子の町」です。
理由の一つは、工芸のページで触れた茶の湯。藩主が裏千家の茶人を招いて以来、武士から町人まで抹茶をたしなむ習慣が広がり、お茶うけの菓子が発達しました。もう一つは、一年中、菓子を食べる行事があることです。
福梅と辻占
前田家の梅鉢紋をかたどった紅白の最中「福梅」。辻占は、中に占いの紙片が入ったおみくじ菓子で、家族で引いて一年を占います。
氷室まんじゅう
加賀藩が旧暦6月1日に雪室の氷を将軍に献上した故事にちなむ、紅・白・緑の酒まんじゅう。夏の無病息災を願って食べます。
五色生菓子
日・月・山・海・里を表す五種類の生菓子。前田家の婚礼に由来するとも伝わり、今も祝いの席で配られます。
長生殿
和三盆などを使った落雁。三代利常の創意によるとされ、日本三名菓の一つに数えられます(ほかは長岡の「越乃雪」、松江の「山川」)。
加賀野菜
表が緑、裏が紫の葉っぱ
金沢市では、昭和20年以前から栽培され、今も主に金沢で作られている野菜を「加賀野菜」としてブランド認定しています。認定されているのは15品目。
- 源助だいこん
- 加賀れんこん
- 五郎島金時
- 金時草
- 打木赤皮甘栗かぼちゃ
- 加賀太きゅうり
- ヘタ紫なす
- 金沢一本太ねぎ
- 二塚からしな
- 赤ずいき
- くわい
- 加賀つるまめ
- 金沢春菊
- せり
- たけのこ
なかでも地元らしいのが金時草(きんじそう)。葉の表は緑、裏は鮮やかな紫で、ゆでると独特のぬめりが出ます。酢の物にすると、ゆで汁まで赤紫に染まるのが面白いところ。加賀れんこんは、すりおろして蒸した「はす蒸し」で食べるのが金沢流です。
洋食とB級グルメ
ハンガリーにない「ハンガリー料理」
金沢の洋食屋の定番ハントンライスは、ケチャップライスを薄焼き卵で包み、白身魚のフライをのせてケチャップとタルタルソースをかけた一皿。名前は、ハンガリーの「ハン」と、フランス語でマグロを意味する「トン(thon)」を合わせた造語とされます。ところが、ハンガリーにこんな料理はありません。有力説発祥の店にも諸説ある、謎多き郷土洋食です。
もう一つが金沢カレー。濃厚でどろりとしたルーをステンレスの皿に盛り、カツをのせてソースをかけ、キャベツの千切りを添える。スプーンではなくフォークや先割れスプーンで食べるのが特徴です。
そして、石川県民のソウルフードといえる8番らーめん。国道8号線沿いの店から始まったことが名前の由来で、野菜たっぷりのらーめんは、いまやタイを中心に海外でも多くの店舗を展開しています。北陸の国道から東南アジアへ――食の世界にも、バタフライエフェクトがあります。
石川で「お茶」といえば、茎を焙じた加賀棒茶が身近です。香ばしくて苦みが少なく、食事にも和菓子にも合う。昭和天皇に献上されたことでも知られ、地元の人は来客にも気軽にこのお茶を出します。



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