謎を解く

都市伝説と異界

夜ごと冥界へ通った役人の井戸。幽霊が赤子のために飴を買った店。清水の舞台から本当に飛んだ人々の記録。京都は、この世とあの世の境目が近い町だ。

地形を読む「あの世の入口」は、住宅街にある

東山の松原通。清水寺へ向かう観光客がひっきりなしに歩くこの道の途中に、「六道の辻」と刻まれた石碑が立つ。ここは平安時代、京都の東の葬送地・鳥辺野(とりべの)への入口だった。遺体を送る人々は、この辻でこの世と別れを告げた。いつしか「この世とあの世の境目」と呼ばれるようになった。史実

辻に建つ六道珍皇寺には、奇妙な伝説がある。平安時代の官僚で歌人の小野篁(おののたかむら)は、昼は朝廷に仕え、夜になると寺の井戸から冥界へ下り、閻魔大王の裁判の補佐をしていた──というのだ。伝承 境内には、篁が冥界へ通ったとされる「冥土通いの井戸」が今も残る。

「六道の辻」。この世とあの世の境目とされた
「六道の辻」。この世とあの世の境目とされた

人に迫る幽霊が買いに来た飴

六道の辻のすぐそばに、「幽霊子育飴」という看板を掲げた小さな店がある。史実 伝わる話はこうだ。

昔、毎晩のように夜更けに飴を一つだけ買いに来る、青白い顔の女がいた。不審に思った店主が後をつけると、女は墓地の中へ消えた。墓を掘り返すと、身ごもったまま亡くなった女性の亡骸のそばで、生まれたばかりの赤ん坊が飴をしゃぶっていた──。伝承 女は、墓の中で生まれたわが子のために、幽霊となって飴を買いに来ていたのだという。

店は今も営業していて、素朴な麦芽糖の飴を売っている。史実 怪談の店で買う、やさしい甘さの飴。京都の不思議は、こんなふうに日常のすぐ隣にある。

謎を解く清水の舞台から、本当に飛んだ人々

約13m・釘を使わない懸造
釘を使わずに組まれた舞台

思い切った決断をすることを「清水の舞台から飛び降りる」という。この言葉は、ただのたとえではない。江戸時代、本当に飛び降りた人がたくさんいたのだ。史実

清水寺の塔頭・成就院に残る記録によると、1694年から1864年までの約170年間に、未遂も含めて230件を超える飛び降りが記録されている。そして驚くべきことに、その生存率は約85%だったという。史実

人々は、命を観音さまに預けて飛び降りれば願いがかなう、助かれば願いが成就する、と信じて飛んだと考えられている。有力説 当時は舞台の下に木々が茂り、地面も今より柔らかかったため、助かる人が多かったのだろうとも言われる。有力説 明治に入ると、京都府は飛び降りを禁止した。史実

清水の舞台を支える懸造の柱。高さは約13m
清水の舞台を支える懸造の柱。高さは約13m

謎を解く国の危機に鳴る塚

東山の山頂近くに「将軍塚」という塚がある。平安京をつくった桓武天皇が、都を守るため、甲冑を着せ弓矢を持たせた高さ八尺(約2.4m)の土の将軍像を、都の方角を向けて埋めた──と伝えられる。伝承

そしてこの塚は、国に異変が起きる前に鳴動すると言われてきた。『平家物語』などの古典にも、将軍塚が鳴り響いたという記述が見られる。伝承 現在、塚のそばにある青蓮院の飛び地境内・将軍塚青龍殿には大きな木造の舞台があり、清水の舞台より高い位置から京都市街を一望できる。

因果の連鎖地獄から紫式部を救った男

京都市北区、堀川北大路の近くに、紫式部の墓と伝わる塚がある。史実 不思議なのは、その隣に小野篁の墓と伝わる塚が、並んで立っていることだ。史実 二人は生きた時代が100年以上も離れている。

なぜ並んでいるのか。一説には、『源氏物語』という「つくり話」で人々を惑わせた罪で、紫式部は地獄に落ちた。それを、閻魔大王と親しい篁がとりなして救い出した──そんな伝説から、二人の墓が並べられたという。伝承 昔の仏教では、嘘の物語を書くことは罪とされていた。千年読み継がれる物語の作者も、あの世では苦労していたのかもしれない。

謎を解く縁を切る石、呪いの井戸

祇園の近くにある安井金比羅宮は、「縁切り」の神社として知られる。境内には、穴のあいた大きな石「縁切り縁結び碑」があり、願いを書いた形代(かたしろ)を持って、表から裏へくぐると悪縁が切れ、裏から表へくぐると良縁が結ばれるという。史実 石は、びっしりと貼られた形代で白く覆われていて、その一枚一枚に書かれた願いの生々しさに圧倒される。

堺町通の路地の奥には、「鉄輪(かなわ)の井戸」がひっそり残る。夫に捨てられた女が、鉄輪(五徳)を頭にかぶって丑の刻に貴船神社へ参り、鬼となって恨みを晴らそうとした──能の「鉄輪」で知られる物語ゆかりの井戸だ。伝承 この井戸の水を相手に飲ませると縁が切れる、という話まで伝わっている。都市伝説

謎を解く深泥池 ── 怪談と天然記念物

京都市北区の深泥池(みどろがいけ)は、京都の人なら誰もが知る「心霊スポット」だ。タクシーに乗せた女性客が、深泥池のあたりでいつの間にか消えていて、座席がぐっしょり濡れていた──という話は、全国に広まったタクシー怪談の京都版として有名だ。都市伝説

けれど深泥池には、もう一つの顔がある。池には氷河期から生き残ったとされる植物や、浮島(ミズゴケなどでできた島)があり、「深泥池生物群集」として国の天然記念物に指定されている。史実 怪談で語られる池が、じつは数万年前の自然を今に伝える、学術的にもきわめて貴重な場所なのだ。怖い話の裏側に、本物の驚きが隠れている。

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