これは、幕末の時期に日本からイギリスに死を覚悟して密航し、技術を持ち帰り、日本の発展に大きく寄与した、「長州ファイブ」と呼ばれる5人の物語である。
- 伊藤俊輔(=伊藤博文:「内閣の父」/初代内閣総理大臣)
- 井上聞多(=井上馨:「外交の父」/初代外務大臣)
- 山尾庸三(「工学の父」/工部卿)
- 遠藤謹助(「造幣の父」/造幣局長)
- 野村弥吉(=井上勝:「鉄道の父」/鉄道庁長官)
1910年のロンドン。老いた井上勝が、47年前に5人で立った場所へ戻ってくる。そこから語られる、攘夷の火を放った若者たちが、その火で焼こうとした国へ渡るまでの物語。
目次
序章汽笛明治43年(1910)夏 ロンドン1910年夏、ロンドン。66歳の井上勝が、47年前に5人で立ったユニバーシティ・カレッジの前へ戻ってくる。若い技師に語り始めた、長州ファイブの物語の序章。
第一章燃やす者たち文久2年(1862)冬 江戸・品川/横浜1862年冬、品川・御殿山。高杉晋作らと英国公使館に火を放った伊藤俊輔、井上聞多、山尾庸三。燃やした家の窓ガラスとねじが、若者たちの心に問いを残す。
第二章生きた器械文久3年(1863)春 長州・京都・江戸・横浜1863年春。藩の内々の許し、5,000両の工面、髷を切る夜、「生きた器械」の書き置き。5人の長州藩士が横浜から英国へ密航するまでを描く第二章。
第三章上海、二つの船文久3年(1863)夏〜秋 上海/インド洋/大西洋1863年夏、上海。100隻を超える軍艦に攘夷の無謀を悟った5人は、二つの船に分かれてロンドンへ。「ネビゲーション」の言い間違いが招いた過酷な船旅。
第四章霧の都1863年秋〜1864年冬 ロンドン1863年秋、ロンドン。ウィリアムソン教授の家とUCLの実験室、地下鉄の煙、貧しい路地。5人がそろって学んだ短い季節と、新聞に載った長州の危機。
第五章タイムズの記事1864年 ロンドン/横浜/山口/下関1864年。故郷の危機を知った伊藤と井上は帰国し、戦を止めようと奔走する。四国艦隊の砲撃、講和の談判、そして袖解橋の夜。長州ファイブ物語の第五章。
第六章残された三人1864〜1867年 ロンドン/グラスゴー1864〜1867年、ロンドンとグラスゴー。残った山尾、遠藤、野村は、薩摩の留学生と出会い、病と貧しさに耐えながら学び続ける。造船所に響く槌の音。
第七章器械たちの帰還1866〜1872年 山口/横浜/大阪/東京1866〜1872年。帰国した5人は、何もない新しい国でそれぞれの持ち場を見つける。工部省、大阪の造幣寮、そして海の上を走る日本初の鉄道。
第八章五つの音1873〜1889年 東京/大阪/逢坂山1873〜1889年。工部大学校、造幣局の桜の通り抜け、逢坂山トンネル、大日本帝国憲法、鹿鳴館。5人がそれぞれの場所で鳴らした「五つの音」。
終章汽笛明治43年(1910)夏 ロンドン1910年、ロンドン。井上勝は「帆がないのに、どうやって進むのか」という問いの、もう一つの答えにたどり着く。長州ファイブ物語、完結の章。
登場人物と、それぞれの音
伊藤俊輔のちの伊藤博文 ペンの音
周防の貧しい農家の出。問いを手放さない男。御殿山の焼け跡で、溶けたギヤマンを拾う。
井上聞多のちの井上馨 砲声と刀の音
気性の激しい年長者。公使館に火をつけた本人が、異国へ行くと名乗り出る。
山尾庸三のちの「工学の父」 槌の音
口数が少なく、手で考える。御殿山からねじを一本持ち帰る。
遠藤謹助のちの「造幣の父」 貨幣の音
5人の中で最も目立たず、最も長く屈辱に耐える。メキシコ銀貨をはじく男。
野村弥吉のちの井上勝 汽笛
語り手。少年の日に聞いた「帆がないのに」の問いを、生涯かけて追う。
この物語について
この物語は、史実をもとにした歴史小説です。会話や心の動き、記録のすき間の場面には創作を含みます。各章の終わりの「この章の史実と創作」で、記録に残る事実と創作とを分けて示しています。長州ファイブの史実そのものは、萩ヒストリアの記事でも紹介しています。
