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第7章

数字で見るラーメン

市場・店・家計・インスタント

日本には、いったいどれくらいのラーメン店があるのでしょうか。

総務省などの「経済センサス」をもとにした集計では、2016年の時点で、全国のラーメン店は約1万8,000店と数えられています。ただし、ラーメンをおもなメニューにする中華料理店や、駅や商業施設のフードコートの店などを含めると、ラーメンを食べられる店はもっと多くなります。この章では、いくつかの統計や調査を手がかりに、ラーメンを数字で見てみます。

10年で1.6倍に育った市場

民間の信用調査会社・帝国データバンクの調査(2026年7月発表)によると、ラーメン店の市場規模は、2025年度に約8,855億円に達する見込みで、集計できる2010年度以降で過去最高を更新しました。10年前の2015年度(5,418億円)と比べると、約1.6倍に増えた計算です。

売上高の上位50社が運営するラーメンチェーンの店舗数は、2025年度末で6,305店と、過去最多になりました。新型コロナウイルスの流行で2020年度には一時減ったものの、その後は大手チェーンを中心に店を増やしています。

それでも、前年の同じ調査(2025年7月発表)では、上位3社の売上高のシェアは約25%(2023年度時点)にとどまるとされていました。牛丼やハンバーガーのように、少数の大手が市場の大半を占める業界と違い、ラーメンは今も、無数の個人店や中小のチェーンがしのぎを削る業界なのです。

約8,855億円ラーメン店の市場規模(2025年度見込み)
6,305店上位50社のチェーン店舗数(2025年度末)
約1万8千店全国のラーメン店(2016年)

「1000円の壁」

市場が大きくなる一方で、ラーメン店の経営は楽ではありません。

ラーメンの材料は、小麦粉、豚骨や鶏ガラ、チャーシューにする豚肉、ねぎ、海苔、そしてスープを炊き続けるガス代や電気代。そのほとんどが、ここ数年で値上がりしました。帝国データバンクが作った「ラーメン原価指数」(豚骨ラーメン、東京都区部)は、2020年を100とすると、2025年には141と、4割以上も上がっています。

ところが、ラーメンの値段は思うように上げられません。「ラーメンは1杯1,000円以下で食べるもの」という感覚が、客の側に根強くあるからです。この心理的な上限は「1000円の壁」と呼ばれ、ラーメン業界の大きな課題になっています。材料費が上がっても値上げができず、利益が削られていく――。とくに、大手チェーンのように材料をまとめて安く仕入れることのできない、個人経営の店ほど苦しくなります。

増える倒産、二極化する店

帝国データバンクの集計では、ラーメン店の倒産(負債1,000万円以上の法的整理)は、2023年度の75件が過去最多で、その後は2年続けて減り、2025年度は55件でした。ただし、倒産の多くは中小や個人の店で、統計に表れない廃業も多いと考えられています。東京商工リサーチの集計(負債1,000万円以上の企業が対象)でも、2024年(暦年)のラーメン店の倒産は57件と、2009年に集計を始めてから最も多くなりました。

一方で、2025年度に増益だったラーメン店は38.5%で、減益の34.8%をわずかに上回りました。値上げを受け入れてもらえる人気店や、規模の大きなチェーンは利益を伸ばし、そうでない店は苦しむ――。ラーメン業界は、勝ち組と負け組の「二極化」が進んでいると言われます。

ラーメン店の券売機
ラーメン店の券売機

一杯のラーメンを支える産業

ラーメン店の後ろには、たくさんの産業がつながっています。

麺を作る製麺所、豚骨や鶏ガラを扱う食肉の業者、醤油や味噌の醸造所、メンマやナルト、海苔を作る会社。濃縮スープやタレを業務用に作るメーカーもあり、チェーン店や、スープを一から炊く余裕のない店を支えています。ほかにも、丼などの食器、寸胴鍋や麺をゆでる専用の機械、食券の券売機を作る会社。ラーメン専門の求人や、開業を手伝う会社もあります。

インスタントラーメンやカップ麺、冷凍ラーメン、スーパーで売られる生麺やチルド麺まで含めると、ラーメンにかかわる市場は、店の売り上げの何倍にも広がります。ラーメンは、一杯の丼を中心にした、大きな「産業」でもあるのです。

大手チェーンと個人店

ラーメン店には、全国に数百の店を持つ大手チェーンから、店主ひとりで切り盛りする小さな店まで、さまざまな規模の店があります。

大手チェーンは、中央の工場でスープやタレ、麺を作って各店に運び、どの店でも同じ味を手ごろな値段で出す仕組みを作っています。材料をまとめて仕入れることで原価を抑え、食券の券売機やタブレットでの注文、セルフサービスの導入などで、人手の不足にも対応しています。最近は、海外への出店に力を入れるチェーンも増えています。

一方、個人店は、店主のこだわりの味と、その店でしか食べられない一杯で勝負します。けれど、材料費や光熱費が上がると、その負担がそのまま利益を圧迫します。帝国データバンクが指摘する「二極化」は、こうした規模の違いから生まれる、体力の差とも言えます。

「ラーメンの町」はどこか

ラーメンを最もよく食べる町はどこでしょうか。総務省の「家計調査」には、外食の「中華そば」への1世帯あたりの年間支出額という項目があります(2人以上の世帯、県庁所在市と政令指定都市が対象)。

2024年の結果では、1位が山形市(22,389円)、2位が新潟市(16,292円)、3位が仙台市(15,534円)、4位が富山市(13,775円)でした。2023年から2025年の3年間の平均で見ても、山形市は21,695円と、全国平均の8,752円の2倍を大きく超えています。

山形県では、昔から出前でそばやラーメンを取り、来客をもてなす習慣があったと言われます。夏には冷たい「冷やしラーメン」、赤湯の「辛味噌ラーメン」、米沢の細い縮れ麺の醤油ラーメンなど、県内に個性的なラーメンがそろっていることも、「ラーメン県」を支えています。山形市と新潟市は、毎年のように1位を争うライバルです。

反対に、外食のラーメンへの支出が少ない都市には、神戸市や長崎市などが並びます。長崎ならちゃんぽんの店、神戸なら中華街の料理店など、ラーメン以外の麺料理や中国料理の店が多いことも理由のひとつと考えられます。

家で食べるラーメン

店で食べるラーメンとは別に、家庭ではインスタントラーメンが大量に食べられています。世界ラーメン協会の推計では、日本のインスタントラーメンの需要は2025年に59.5億食で、国・地域別では世界5位でした(第3章)。日本の人口で割ると、1人あたり年に約48食。1週間に1食近く食べている計算になります。

最近は、人気店の味をそのまま冷凍して家庭に届ける「冷凍ラーメン」や、店の監修したカップ麺も増えています。ラーメンは、店で食べるもの、家で作るもの、取り寄せるもの、と食べ方の選択肢を広げ続けています。

数字の向こう側

数字だけを見ると、ラーメンは大きく、そして成長を続ける産業です。けれど、その中身は、毎朝暗いうちから豚骨を炊き、夜遅くまで麺をゆで続ける、一人ひとりの店主の仕事の積み重ねです。値上げをためらいながら、それでも「この値段で、この一杯を」と踏ん張る店がある一方で、静かにのれんを下ろす店もあります。

ラーメンが「安くてうまい国民食」であり続けられるのかどうか。その問いは、第10章でもう一度考えます。

ここを見る:券売機のいちばん上

券売機の左上、いちばん目立つ場所には、たいてい店の看板メニューが置かれています。その値段が1,000円を超えているかどうか。トッピングの値段はいくらか。最近値上げをした跡(値段のシールの貼り替え)がないか。券売機は、その店の経営の考え方と、材料費の高騰と向き合う苦労を映す鏡でもあります。

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この章の出典と注記

事実

  • 帝国データバンクの調査(2026年7月発表):ラーメン店の市場規模は2025年度に約8,855億円(見込み)、2015年度は5,418億円。上位50社のチェーン店舗数は2025年度末で6,305店。倒産は2023年度の75件をピークに減り、2025年度は55件。増益の割合は38.5%。
  • 帝国データバンクのラーメン原価指数(2026年1月発表)は、2025年に141(2020年=100)。上位3社のシェア約25%(2023年度)は2025年7月発表の調査による。
  • 東京商工リサーチの集計:2024年のラーメン店の倒産は57件で、2009年以降で最多。
  • 総務省「家計調査」2024年:中華そば(外食)への支出は山形市22,389円、新潟市16,292円、仙台市15,534円、富山市13,775円。2023〜2025年の平均では山形市21,695円、全国平均8,752円。

諸説・補足

  • 市場規模や店舗数、倒産件数は、調査会社ごとに対象や数え方が異なり、数字は一致しない。帝国データバンクの数字は、新しい調査で過去の年度の値が改定されることがある。
  • 全国のラーメン店の数(約1万8,000店、2016年)は、経済センサスをもとにした報道による概数。
  • 1人あたりのインスタントラーメン消費量は、世界ラーメン協会の推計値を日本の総人口(約1.24億人)で割った概算。
  • 山形県で中華そばの支出が多い理由は、地元で語られている説明による。

主な参考資料

  • 帝国データバンク「ラーメン店」市場動向調査(2025年7月・2026年7月発表)、「ラーメン原価指数」
  • 東京商工リサーチ「ラーメン店の倒産動向」
  • 総務省統計局「家計調査」「経済センサス」
  • 世界ラーメン協会(WINA)「世界の即席麺総需要」
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