日本のラーメン店には、はじめての人がとまどう「お約束」がいくつかあります。入口の券売機、「麺の硬さは?」という質問、黙々とすする客たち、テーブルの上の見慣れない調味料。けれど、心配はいりません。ラーメン店は、もともと誰でも気軽に入れる大衆的な店です。決まりごとの多くは、店がおいしい一杯を手早く出し、客が気持ちよく食べるための工夫にすぎません。
このガイドでは、店に入る前から食べ終わるまでの流れにそって、ラーメンの食べ方と、知っておくと役に立つことを紹介します。最後に、店で使える日本語の短いフレーズもまとめました。なお、ここに書いたことは一般的な目安で、店ごとに方針は違います。迷ったら、店の掲示や店員の案内に従ってください。
1 店に入る前に
行列のルール。人気店には行列ができます。並ぶ場所は、店の前の壁ぞいや、少し離れた場所に決められていることが多く、張り紙や床の印で示されています。近所の迷惑にならないよう、道をふさいだり、隣の店の前に並んだりしないようにしましょう。また、多くの店では、全員がそろってから並ぶのが決まりです。1人が先に並んで、あとから仲間が合流する「代表者並び」は、後ろの客とのトラブルになりやすいため、断っている店が少なくありません。
入る前に食券を買う店もある。行列の途中で、先に食券を買うように案内される店があります。店員が「食券を先にお願いします」と声をかけたり、行列の横に券売機があったりします。前の人のやり方を見ておくと安心です。
営業時間と「スープ切れ」。スープを毎日決まった量だけ炊く店では、スープがなくなった時点で営業を終えることがあります。営業時間内でも「本日終了」の札が出ていることがあるので、人気店には早めの時間に行くのがおすすめです。混みあうのは、平日なら昼の12時前後と夕方から夜にかけてです。
現金のみの店も。キャッシュレス決済が広がっていますが、個人経営の店や古い券売機の店では、今も現金しか使えないことがあります。千円札を何枚か用意しておくと安心です。券売機によっては、新しいお札や一万円札が使えない場合もあります。

2 券売機で食券を買う
多くのラーメン店では、入口近くの券売機で、先に食券を買います。日本人にとってもラーメン店の象徴のような機械です。
- お金を先に入れる。お金を入れると、買えるメニューのボタンが光ります。
- ボタンを押す。いちばん左上や大きなボタンが、その店の看板メニューであることが多いです。
- トッピングは別のボタン。煮玉子、チャーシュー増し、大盛り、ご飯などは、それぞれ別の食券を買います。
- おつりを忘れずに。最後に「おつり」のレバーやボタンを押します。
- 食券を店員に渡す。席に着いたら、カウンターの上に食券を置くか、店員に手渡します。このとき、麺の硬さなどの好みを聞かれることがあります。
最近は、英語や中国語、韓国語の表示に切り替えられる券売機や、写真つきのタッチパネル式の券売機も増えています。読めないボタンがあっても、店員に食券を見せて指さしで確かめれば大丈夫です。券売機のない店では、席に着いてから口頭で注文し、食べ終わったあとに支払うのが一般的です。

3 好みを伝える
ラーメン店では、客が自分の好みを伝えられるところが少なくありません。代表的なのは次のようなものです。
麺の硬さ。とくに博多ラーメンなど九州の豚骨ラーメンの店では、麺の硬さを聞かれます。やわらかい順に「やわ」「ふつう」「かた」「バリカタ」「ハリガネ」「粉落とし」など。はじめてなら「ふつう」か「かた」がおすすめです。極細麺はのびやすいので、少し硬めに頼むと最後までおいしく食べられます(第6章)。
味の濃さ・油の量(家系)。横浜の家系ラーメンでは、麺の硬さ、味の濃さ、鶏油の量を「かため・こいめ・おおめ」のように組み合わせて頼めます。何も言わなければ「ふつう」で出てきます。
二郎系の「コール」。二郎系の店では、ラーメンができあがる直前に、店員から「ニンニク入れますか?」と聞かれます。ここで、無料で増やせる具や味の濃さを伝えます(言葉やルールは店によって異なります)。「ヤサイ」(もやしとキャベツを増やす)、「ニンニク」、「アブラ」(背脂)、「カラメ」(味を濃く)。何も足さないなら「そのままで」と答えれば大丈夫です。量がとても多い店なので、はじめてなら「小」サイズを選ぶのが安心です。
注文用紙に書く店。福岡発祥のチェーン「一蘭」のように、味の濃さ、こってり度、にんにく、ねぎ、チャーシュー、秘伝のたれの辛さ、麺の硬さを、注文用紙に丸をつけて選ぶ店もあります。多くの言語の用紙を用意している店もあります。
4 席に着いたら
ラーメン店の席は、厨房を囲むカウンターが中心です。ひとりで来る客も多く、ひとりで入っても何の気がねもいりません。
- 水はセルフサービスのことが多い。カウンターの上や店の奥に給水機やピッチャーがあります。
- 紙エプロンやヘアゴム。スープがはねやすいラーメンの店では、紙エプロンを用意していることがあります。髪の長い人のためのヘアゴムを置いている店もあります。
- 荷物はコンパクトに。席がせまい店が多いので、大きな荷物は足元や指定の場所に。スーツケースを持ちこめない店もあります。
- 1人1杯が基本。多くの店では、1人1杯の注文をお願いしています。シェアしたいときは、店に確認しましょう。
5 食べる――スープ、麺、具の順に
ラーメンが出てきたら、なるべく早く食べ始めましょう。ラーメンは、できたてがいちばんおいしい料理です。とくに麺は、時間がたつとスープを吸ってやわらかくなり、「のびて」しまいます。写真を撮るなら、手早く1〜2枚にしておくのが、作った人へのいちばんの礼儀です。
決まった順番はありませんが、よく言われる楽しみ方は、まずレンゲでスープを一口。香味油の香りと、だしの味を確かめます。次に麺を、そして具を。チャーシューをスープにしばらく沈めて温めてから食べる人もいます。
箸とレンゲ。箸で麺を持ち上げ、レンゲ(陶器のスプーン)でスープを飲みます。箸に慣れていない人は、レンゲの上に麺を少しのせ、スープや具と一緒に「小さなラーメン」にして口に運ぶと食べやすくなります。フォークを置いている店もあります。
6 「すする」のはマナー違反?
日本では、ラーメンやそばを、音を立ててすするのはごく普通の食べ方で、マナー違反ではありません。むしろ、音を立てて勢いよく食べるのは、「おいしい」という合図のように受け取られることもあります。
すするのには、理由があると言われます。熱い麺を、空気と一緒に口に入れることで冷ましながら食べられる。スープを麺にからめて一緒に口に運べる。空気と一緒に吸いこむことで、だしの香りが鼻に抜ける。日本には、江戸時代からそばをすすって食べる文化があり、ラーメンもその食べ方を受け継ぎました(図鑑「なぜ、これほど枝分かれしたのか」)。
ただし、すすれなくても、まったく問題ありません。音を立てずに食べるのも、ひとつの正しい食べ方です。大切なのは、熱いうちに、おいしく食べること。また、すするときは、スープが周りに飛ばないよう、麺を少なめに持ち上げるのがこつです。
7 卓上調味料で「味変」
カウンターやテーブルの上には、いろいろな調味料が置かれています。途中で味を変えることを「味変(あじへん)」と言い、ラーメンの楽しみのひとつです。まずはそのままの味を楽しみ、半分ほど食べてから少しずつ加えるのがおすすめです。
| 調味料 | どんな味 | 合うラーメン |
|---|---|---|
| こしょう | 香りと軽い辛さ | 醤油・塩・味噌 |
| 酢 | 酸味で後味がさっぱり | 油そば・まぜそば・こってり系 |
| ラー油・一味唐辛子 | 辛さ | 味噌・油そば・担々麺 |
| おろしにんにく | 強い香りとパンチ | 豚骨・家系・二郎系 |
| 豆板醤 | 辛みとコク | 家系・味噌 |
| 紅しょうが | さっぱりした酸味 | 豚骨(九州) |
| 辛子高菜 | 高菜漬けの辛い炒め物 | 豚骨(九州) |
| すりごま | 香ばしさ | 豚骨・味噌 |
辛子高菜は、見た目よりかなり辛いことがあります。はじめは少しだけ入れてみましょう。また、トングやスプーンは、使い終わったら元の入れ物に戻します。

8 替え玉――麺だけおかわり
博多ラーメンなど九州の豚骨ラーメンの店では、麺だけを追加する「替え玉」ができます(第6章)。
- スープを残しておく。替え玉を頼むつもりなら、最初の麺を食べ終えるとき、スープを飲み干さずに残しておきます。
- 頼み方。券売機で替え玉の食券を買うか、麺がまだ少し残っているうちに「替え玉ください」と声をかけます。店によっては、硬さも選べます。「半玉」(半分の量)を用意している店もあります。
- 味を足す。替え玉をするとスープの味が薄まるので、卓上の「ラーメンのたれ」を少し足す店もあります。
9 つけ麺とまぜそばの食べ方
つけ麺。麺をひと口分ずつ箸でとり、つけ汁に半分ほどつけて食べます。麺を全部つけ汁に入れてしまうと、汁が冷めて薄まるので注意しましょう。食べ終わったら、残ったつけ汁に「スープ割り」(だしを足して飲みやすくすること)を頼めます。器をカウンターの上に置いて「スープ割りお願いします」と言うか、店の決まった方法に従います。つけ汁が冷めてしまったら、熱い石を入れて温め直してくれる店もあります。
まぜそば・油そば。スープのない麺は、食べる前に丼の底のタレと具を、麺と一緒に底からしっかり混ぜます。途中で酢やラー油を加えるのが定番です。食べ終わったあと、残ったタレと具に小さなご飯を入れて食べる「追い飯」を用意している店もあります。
10 スープは飲み干すべき?
スープを全部飲むかどうかは、自由です。残しても失礼にはあたりません。ラーメンのスープには塩分が多く含まれているので、健康を考えれば、むしろ残すことがすすめられています(第9章)。一方で、スープを最後まで飲み干す「完飲(かんいん)」を、店への敬意として大切にする熱心なファンもいます。どちらを選ぶかは、あなた次第です。
11 食べ終わったら
- 長居はしない。行列のある店では、食べ終えたら早めに席を立つのがマナーとされます。おしゃべりは店の外で。
- 丼をカウンターの上へ。カウンターの高い段に、丼を戻す店があります。周りの客がそうしていたら、まねをしましょう。
- テーブルをさっとふく。ふきんやティッシュが置いてあれば、こぼしたスープを軽くふくと喜ばれます。
- 「ごちそうさまでした」。店を出るときに一言かけると、作った人にも気持ちが伝わります。
- チップは不要。日本の飲食店では、基本的にチップを払う習慣はありません。食券制の店では、支払いもすでに済んでいます。
12 食べられないものがあるとき
ラーメンのスープには、豚骨や鶏ガラ、魚介のだしが使われていることがほとんどです。「豚肉だけをのせない」ことはできても、スープから豚を除くことはできない場合が多いので、注意が必要です。
ベジタリアンやヴィーガンの人、豚肉やアルコールを口にしない人のために、野菜だけのスープのラーメンや、ムスリムフレンドリーのラーメンを出す店も、都市部を中心に増えています(第6章・第8章)。食物アレルギーのある人は、飲食店にはアレルギー表示の義務がないため、店員に直接確かめるか、日本語で書いたアレルギーのカードを見せましょう。スープや調理器具を共用していることが多く、完全に除けない場合もあります(第9章)。
店で使える日本語
| 日本語 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| すみません | sumimasen | 呼びかけ(すみません、ちょっと) |
| これをください | kore o kudasai | これをお願いします |
| 麺かためで | men katame de | 麺を硬めにしてください |
| ふつうで | futsū de | ふつうでお願いします |
| 替え玉ください | kaedama kudasai | 麺のおかわりをください |
| にんにく抜きで | ninniku nuki de | にんにくを入れないでください |
| スープ割りお願いします | sūpu wari onegai shimasu | つけ汁をスープで割ってください |
| 豚肉が食べられません | butaniku ga taberaremasen | 豚肉が食べられません |
| 現金だけですか? | genkin dake desu ka? | 現金しか使えませんか |
| ごちそうさまでした | gochisōsama deshita | ごちそうさまでした(食後のあいさつ) |
作法の向こう側
ラーメン店の「お約束」は、どれも店と客の事情から生まれたものです。食券制は、少ない人数で店を回し、会計の手間を減らすための工夫。長居をしないのは、カウンター席の少ない店で、行列の客にも温かい一杯を届けるため。麺の硬さを聞くのは、のびやすい細い麺を、客の好みのタイミングで出すため。スープ切れで店を閉めるのは、作り置きをせず、その日のスープの味にこだわるからです。
そうした事情を知っていれば、ラーメン店は、決して緊張する場所ではありません。湯気の向こうで黙々と麺を上げる店主の手元を眺めながら、熱い一杯をすする。それは、日本の町のいちばん身近な食文化を、地元の人と同じ目線で味わう時間です。
ここを見る:店の張り紙
ラーメン店の壁には、手書きの張り紙がよく貼られています。「麺の硬さが選べます」「替え玉は麺が残っているうちに」「お水はセルフです」「行列は〇〇方面にお並びください」。張り紙は、その店のルールと、店主の考え方を知るいちばんの手がかりです。日本語が読めなくても、スマートフォンの翻訳アプリのカメラ機能を使えば、多くの場合、その場で意味がわかります。
この章の出典と注記
補足
- このガイドの内容は、多くのラーメン店で見られる一般的な習慣をまとめたもので、店ごとにルールや方針は異なる。
- 「すする」ことの理由(冷ます・香りが広がるなど)は、一般に言われている説明である。
- 麺の硬さの呼び方、二郎系のコールの言葉、家系の注文の仕方は、店によって異なる。
- 日本の飲食店では、加工食品のようなアレルギー表示の義務はない(食品表示法の対象は容器包装された加工食品など)。
主な参考資料
- 新横浜ラーメン博物館「ラーメン大辞典」
- 各ラーメン店・チェーンの公式案内、ラーメン情報サイト各種
- 消費者庁「食物アレルギー表示に関する情報」
