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第9章

ラーメンと体

塩分・カロリー・栄養・研究

「ラーメンは体に悪い」。そう言われることがよくあります。一方で、「たまに食べるくらいなら問題ない」「野菜をのせれば大丈夫」という声もあります。本当のところは、どうなのでしょうか。

この章では、塩分、カロリー、栄養のバランスという三つの点から、ラーメンと体の関係を見ていきます。なお、ここで紹介するのは一般的な情報です。持病のある人や、食事の制限を受けている人は、医師や管理栄養士の指示に従ってください。

いちばんの課題は「塩分」

ラーメンと健康を考えるとき、まず気をつけたいのが塩分です。

ラーメン1杯に含まれる食塩の量は、種類や店によって大きく違いますが、自治体の資料などでは1杯あたり5〜7グラム前後が目安として示されています。濃い味のスープや、大盛り、替え玉をすれば、さらに多くなります。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、生活習慣病を防ぐための1日の食塩の目標量を、成人男性で7.5グラム未満、成人女性で6.5グラム未満としています。世界保健機関(WHO)は、さらに少ない1日5グラム未満をすすめています。つまり、ラーメン1杯をスープまで全部飲むと、それだけで1日の目標量のほとんど、場合によってはそれ以上をとってしまうことになります。

塩分をとりすぎると、高血圧になりやすくなり、脳卒中や心臓病、腎臓病のリスクが高まることがわかっています。日本人の食塩の摂取量は、昔に比べると減ってきましたが、今も目標量を上回っています。

5〜7g前後ラーメン1杯の食塩相当量の目安
7.5g/6.5g1日の食塩の目標量(成人男性/女性)
5gWHOがすすめる1日の食塩の上限

スープを残すと、どれだけ減る?

ラーメンの塩分の多くは、スープに含まれています。麺にも塩分は含まれますが、スープを残せば、とる塩分はかなり減らせます。自治体などの資料では、麺類の汁を半分残すと、1杯あたりの塩分を2グラム前後(資料によって1.5〜2.5グラムほど)減らせる例が紹介されています。汁をすべて残せば、さらに減ります。

「スープこそラーメンの命なのに」と思う人も多いでしょう。全部を残すのが難しければ、「最初の数口だけ味わって、あとは麺と具を楽しむ」「レンゲで飲む回数を決めておく」といった食べ方でも、塩分は減らせます。

カロリーと栄養のかたより

ラーメン1杯のエネルギー(カロリー)も、種類によって大きく違います。あっさりした醤油ラーメンなら1杯500キロカロリー前後のものが多い一方、背脂の多いラーメンや豚骨ラーメンは600〜800キロカロリー、野菜や肉が山盛りの二郎系や大盛りでは、1,000キロカロリーを大きく超えることもあります。ご飯やチャーハン、餃子をセットにすれば、さらに増えます。

栄養のバランスで見ると、ラーメンは、麺の炭水化物と、スープや香味油の脂質が中心で、野菜が少なくなりがちです。チャーシューや煮玉子からたんぱく質はとれますが、ビタミンや食物繊維は不足しやすい。ラーメンを食べる日は、ほかの食事で野菜や果物を多めにとると、1日全体のバランスが整います。

野菜をたっぷりのせたラーメン
野菜をたっぷりのせたラーメン

「週3回以上」とスープ――山形の研究

ラーメンを食べる頻度と健康の関係を調べた研究もあります。山形大学の研究グループは、山形県に住む40歳以上の6,725人を対象に、ラーメンを食べる頻度と、その後の死亡との関係を、中央値で4.5年間追跡して調べました。結果は、2025年に国際的な栄養学の学術誌に発表されています。

この研究では、ラーメンを「週1〜2回」食べる人と比べて、「週3回以上」食べる人は、死亡のリスクが高い傾向がありました。ただし、対象者全体では、その差は統計的に意味のある(偶然とは言いにくい)ものではありませんでした。一方、70歳未満の人や、お酒を飲む習慣のある人に限って分析すると、週3回以上食べる人の死亡リスクは統計的に意味のある高さを示しました(ただし、対象を絞った分析で、結果の幅は大きくなっています)。スープを半分以上飲む人でもリスクが高い傾向がありましたが、統計的に意味のある差ではありませんでした。

研究グループは、ラーメンを頻繁に食べることが、特定の人たちで健康のリスクと関係している可能性を示したとしています。これは「ラーメンが原因で死亡が増える」ことを証明したものではなく、ラーメンを食べる回数の多い人に、塩分のとりすぎや飲酒など、ほかの生活習慣が重なっている可能性もあります。それでも、「頻度」と「スープ」に気をつけることが大切だという考え方を、データの面から支える研究のひとつと言えます。

うま味調味料と、コラーゲンの話

ラーメンをめぐっては、科学的な根拠のはっきりしない話もよく聞かれます。

ひとつは、うま味調味料(グルタミン酸ナトリウム)が体に悪い、という話です。グルタミン酸は、昆布やトマト、チーズなどにも含まれるうま味成分で、国連の食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同食品添加物専門家委員会(JECFA)は、グルタミン酸ナトリウムの1日摂取許容量を「特定しない」と評価しており、通常の食事でとる量で健康上の問題はないとされています(欧州食品安全機関は2017年に、とりすぎを避けるための目安量を設けています)。むしろ、うま味をうまく使うと、塩を減らしてもおいしく感じられるため、減塩に役立つという研究もあります。

もうひとつは、「豚骨スープはコラーゲンたっぷりで肌によい」という話です。豚骨スープにはゼラチン(コラーゲンが熱で溶けたもの)が多く含まれますが、食べたコラーゲンは、体の中でアミノ酸や小さなペプチドに分解されてから吸収されます。食べたコラーゲンがそのまま肌のコラーゲンになるわけではなく、ラーメンのスープで肌がよくなるという確かな根拠はありません。

減塩に取り組む店と町

塩分の多さはラーメンの弱点ですが、それを工夫で乗り越えようとする動きもあります。

だしのうま味をしっかりきかせると、塩を減らしてもおいしく感じられます。昆布や鰹節、煮干しなどのだしを濃くとり、タレの量を減らした「減塩ラーメン」を出す店があります。自治体や病院の管理栄養士と協力して、塩分を控えたラーメンを開発したり、塩分の量を店頭に表示したりする取り組みも、各地で行われています。インスタントラーメンでも、スープの量を少なくしたり、塩分を控えたりした商品が売られています。

食べる時間と量

ラーメンをいつ食べるかも、体への影響にかかわります。お酒を飲んだあとの「シメのラーメン」は、日本の多くの町でおなじみの習慣ですが、夜遅い時間に塩分や脂質の多い食事をとると、睡眠中の消化の負担になったり、エネルギーをとりすぎたりしやすくなります。この章で紹介した山形の研究で、お酒を飲む習慣のある人に死亡リスクの高さが見られたことも、気にとめておきたい点です。

量にも気をつけたいところです。大盛りや替え玉、トッピングの追加をすると、1杯のエネルギーや塩分は大きく増えます。最近は、麺の量を少なめにした「小盛り」や「ハーフサイズ」を用意する店も増えています。自分に合った量を選べることも、ラーメンを長く楽しむためのひとつの工夫です。

アレルギーと食の多様性

ラーメンには、小麦(麺)、卵(麺や煮玉子)、乳(スープやバター)、えびやかに(魚介のだし)など、食物アレルギーの原因になる食材が多く使われています。飲食店には、加工食品のようなアレルギー表示の義務がないため、食物アレルギーのある人は、店に原材料を確かめることが大切です。

小麦を使わない米粉やこんにゃくなどの麺を使ったグルテンフリーのラーメンや、動物性の材料を使わないヴィーガンのラーメンを出す店も増えてきました(第6章)。宗教や体質、考え方の違う人が、同じテーブルでラーメンを楽しめるようにする工夫は、ラーメンが世界の料理になった今、ますます大切になっています。

健康を意識したラーメン

ラーメン業界も、健康への関心の高まりに応えようとしています。塩分を抑えたスープや、全粒粉や食物繊維を加えた麺、野菜をたっぷりのせたラーメン、肉や魚を使わないヴィーガンラーメン、小麦を使わないグルテンフリーの麺。インスタントラーメンでも、油で揚げないノンフライ麺や、塩分を控えた商品が増えています(第3章)。

ラーメンを健康的に楽しむための工夫を、まとめておきます。

  • スープは飲み干さない。半分残すだけでも塩分は減らせます。
  • 野菜をのせる。もやしやねぎ、キャベツのトッピングで、食物繊維やビタミンを補えます。
  • 頻度を決める。毎日ではなく、週1〜2回までなど、自分なりの目安を持ちましょう。
  • セットや替え玉はほどほどに。ご飯や餃子をつけると、エネルギーも塩分も増えます。
  • ほかの食事で調整する。ラーメンを食べた日は、ほかの食事で塩分を控え、野菜や果物を多めにとりましょう。
  • 味を変えるなら、酢やこしょう。卓上の酢やこしょう、にんにくで味を変えれば、タレを足すより塩分を抑えられます。

ラーメンは、塩分やエネルギーの多い食べ物であることは確かです。けれど、それは「食べてはいけない」ということではありません。どれくらいの頻度で、どう食べるか。それを知ったうえで、一杯を楽しむことが大切です。

ここを見る:メニューの栄養表示

大手のラーメンチェーンでは、店のメニューや公式サイトに、1杯ごとのエネルギーや食塩相当量を表示しているところがあります。インスタントラーメンの袋やカップにも、栄養成分表示があり、「めん・かやく」と「スープ」に分けて食塩相当量を書いている商品も多くあります。スープにどれだけの塩分が含まれているかを、一度確かめてみてください。

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この章の出典と注記

事実

  • 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の食塩の目標量は、成人男性7.5g未満、成人女性6.5g未満。WHOは1日5g未満を推奨している。
  • 山形大学の研究(The Journal of Nutrition, Health and Aging, 2025年):40歳以上6,725人を中央値4.5年追跡。週3回以上の群の死亡リスクは、週1〜2回の群と比べて、全体では統計的に有意な差がなかった(ハザード比1.52、95%信頼区間0.84〜2.75)。70歳未満(2.20)と飲酒習慣のある人(2.71)に限った分析では有意に高かった。
  • FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会(JECFA)は、グルタミン酸ナトリウムの1日摂取許容量を「特定しない」と評価している。

諸説・補足

  • ラーメン1杯の食塩量やエネルギーは、店・種類・量によって大きく異なる。本文の数字は自治体の資料などによる目安。
  • スープを残した場合に減る塩分量は、スープの量と濃さによって変わる。
  • 観察研究のため、ラーメンを食べることと死亡リスクの因果関係を示したものではない。

主な参考資料

  • 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」「国民健康・栄養調査」
  • 世界保健機関(WHO)「Sodium reduction」
  • Suzuki M, et al. J Nutr Health Aging. 2025;29:100643(および同誌の訂正)
  • 文部科学省「日本食品標準成分表」、外食チェーン各社の栄養成分表示
  • 神戸市など自治体の減塩に関する公開資料
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